山の端から、閃光が射し、魔物の住む夜の闇が、逃げて行くと、沈黙していた谷津田は、暁光を迎えた。優しい夜霧に守られて、息を潜めて、寝息すら立てられず、存在を隠し続け、一夜を無事に過ごしたものたちが、安堵の気持ちを、一斉に、漏らし始めた。鳥たちはさえずり、草々は、暖かい陽射しを受けて花開き、充実を迎えた果実は、色とりどりに輝きを増していった。実蔓(サネカズラ)が、陽射しを受けて、真っ赤に輝いていた。一般には、別名の『ビナンカズラ』の方が、良く知られていた。何故そう呼ばれているのか、調べて見ると、ビナンは、『美男』と言う意味で、昔、武士たちが、樹皮に含まれている粘液を、鬢付け油(整髪料)として使っていた事によるものらしい。赤色に負けずと、輝きを増していたのは、紫式部『ムラサキシキブ』だった。自然は、何と美しい色彩を生み出すのだろう。人の業では、とても及ばない事だった。
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